(平成11年10月5日 総理官邸)修文

次に教育の問題であります。
急速な情報化や社会環境の急激な変化の中で、日本を始めとする世界の主要先進各国は、国の将来を担う青少年の育成について一様に壁に突き当たっており、去る6月のケルン・サミットにおきましては教育問題がサミット史上初めて取り上げられました。小渕総理が「富国有徳」「教育は国家百年の計」とおっしゃっておられますが、教育の問題は、我が国におきましても正に国民的な課題となっています。
近年、日本の各地でいわゆる学級崩壊や不登校の問題、あるいは青少年の刃物による凶悪犯罪など大変痛ましい事件等が多発しており、これらの解決が教育現場での喫緊の課題となっています。このような問題につきましては、国民の皆様と幅広い議論を交わし、早急に解決していかなくてはならないものです。こうした差し迫った問題の解決を急ぐとともに、私と致しましては、戦後五十余年が経った今、戦後の日本の教育について総点検をするべき時期が来たと思っています。これからの日本の教育はどうあるべきか、どういう日本人を育てていくべきか、というような教育の根本にかかわる議論を行い、今後の新しい時代に向けての教育の理念をキチンと打ち立て、それに沿って長期的視野に立った教育改革を進めていくべきだと考えています。私は、いまの日本の教育は崖っぷちに立たされていると言っても過言ではない、と厳しい認識を持っています。単なる改革ではなく「教育革命」を行うくらいの決意で、教育の問題に真剣に取り組んでいきたいと思っております。
皆様ご存知の通り、過日、与党三党の間で「教育改革国民会議」の設置が合意されました。このような場で教育の問題について幅広く大いに議論して頂けることは大変に結構なことであると思います。そこでの議論の中で結論が出てきましたものについては、文部省としても積極的に法整備につとめて、具体化に努力をしてまいりたいと思います。
また、教育基本法につきましては色々と議論があることは承知しておりますが、私と致しましては、憲法についても国会で「憲法調査会」が設置されて議論が始まるということでもあり、「日本国憲法の精神に則り……(教育基本法前文)」制定された教育基本法についても大いに議論し検討する時期に来ていると思っております。
なお、文部省所管のスポーツ、文化、学術等の分野につきましては、今後も引き続き全力でその振興に取り組んでまいります。
教育と科学技術は何れも国の繁栄・発展の最も基盤となるものであり、どちらも成果をみるには時間を要するものです。明るい未来を我々の子や孫の世代に引き渡していくためにも全力を尽くしていく所存です。